
「マイクの声が、後ろの席まで届かない」。講演会や式典の準備で、担当の方からよく聞かれる悩みです。
講演会や式典は、音楽イベントのように大きな音を出す場ではありません。そのかわり、登壇者の声が客席の後ろまではっきり聞き取れることと、式の流れに合わせて音が途切れずに出ることが求められます。開式の合図で入場曲が流れ、国歌の音源がぴたりと始まる。そうした「当たり前」は、事前のセッティングと段取りで支えられています。
音響を外部に依頼する場合も、会場の設備を使って自分たちで準備する場合も、打ち合わせの下地として使ってください。
講演会と式典で、音響に求められることの違い
講演会と式典は、どちらも「話を聞かせる」催しですが、音響の組み立て方には違いがあります。
| 講演会・セミナー | 式典(周年・表彰・入学式など) | |
|---|---|---|
| 中心になる音 | 講師の声(長時間) | 式辞・祝辞などの短いあいさつ+音楽 |
| 話す人の数 | 講師、司会、質問者 | 主催者、来賓、司会、受賞者など多数 |
| 音楽・音源 | 開演前のBGM程度 | 入退場曲、国歌・校歌、表彰時のBGM、VTR |
| 難しいところ | 講師が動く、質疑応答の声を拾う | 進行が細かく、きっかけ(合図)が多い |
| 準備の要 | マイクの種類選び | キューシートとリハーサル |
講演会は「一人の声を長く、聞き疲れしない音で」、式典は「多くの人と音源を、式次第どおりに切り替える」。この違いが、準備で力を入れる場所を分けます。
必要なマイクと音源を書き出す
最初にやることは、プログラムを見ながら誰が、どこで、何を使って話すか、何の音をどのタイミングで流すかを書き出すことです。ここからマイクの本数と種類、ミキサー(音量を調整してまとめる機械)の入力数が決まります。
講演会のよくある構成例
| 用途 | 場所 | マイク・音源の例 |
|---|---|---|
| 講師 | 演台 | 演台マイク(スタンドに立てたマイクや、演台の首の長いグースネックマイク) |
| 講師(動きながら話す場合) | ステージ上 | ピンマイク(襟元につける小型マイク)またはワイヤレスのハンドマイク |
| 司会 | 司会台 | 有線マイク+スタンド、またはワイヤレスのハンドマイク |
| 質疑応答 | 客席 | ワイヤレスのハンドマイク(係が持って回る) |
| BGM | 音響卓 | 開演前・休憩中の音楽 |
| スライドの動画 | 講師のPC | PCの音声を音響卓へ |
講演会で見落とされやすいのが、質疑応答のマイクとスライドに入っている動画の音です。客席の質問がマイクを通らないと、ほかの参加者には聞こえません。講師のPCから動画を流す場合は、PCの音を音響卓へつなぐケーブルの準備が必要です。
式典のよくある構成例
| 用途 | 場所 | マイク・音源の例 |
|---|---|---|
| 式辞・祝辞・謝辞 | 演台 | 演台マイク(登壇者が入れ替わるため、角度を合わせやすいもの) |
| 司会進行 | 司会台 | 有線マイク+スタンド(予備にワイヤレスを1本) |
| 来賓紹介・受賞者のひとこと | 来賓席・ステージ | ワイヤレスのハンドマイク |
| 入場曲・退場曲・BGM | 音響卓 | 音楽ファイル |
| 国歌・校歌・社歌 | 音響卓 | 歌唱入りか伴奏のみかを決めた音源 |
| オープニング映像などのVTR | 映像の再生PC | PCの音声を音響卓へ |
式典では、国歌や校歌の音源を「歌唱入り」で流すのか、「伴奏のみ」で会場が歌うのかを事前に決めておきます。前奏の長さや音量も音源によって違うため、早めにファイルを受け取って確認しておきます。

スピーカーの置き方:客席全体に届けて、ハウリングを避ける
基本は「ステージの前方左右、マイクより客席側」
スピーカーは、ステージの前方の左右に置き、演台や司会台のマイクより客席側に出すのが基本です。ヤマハのPAビギナーズガイド(会議編)でも、スピーカーは発言者のマイクにかぶらない位置に、左右に広げて設置するよう紹介されています。ハウリング(スピーカーの音をマイクがもう一度拾い、「キーン」「ボー」と鳴る現象)は、スピーカーから出た音がマイクに戻ることで起きます。ヤマハの解説でも、まずは必要な音量の範囲で音量を下げること、マイクとスピーカーの距離を離したり向きを変えたりすることが、機器を使わない抑え方として挙げられています。
TOAの資料では、スピーカーの真下でマイクを使うとハウリングが起きやすいこと、単一指向性のマイク(正面の音を中心に拾うマイク)でもハウリングは起こるため、スピーカーから離して設置することが説明されています。演台をスピーカーの真横や手前に置かないよう、レイアウトの段階で位置関係を決めておきます。
高さと向きで、後ろの席まで届ける
スピーカーを床に直接置くと、前の席の人が壁になり、後ろまで声が届きにくくなります。スタンドで客席の耳の高さ以上に上げると、会場全体に音が広がりやすくなります。
スピーカーには、音がよく届く角度の範囲(指向角)があります。たとえばアイフィルムの基本セットのヤマハ DXR15 mk3 は、メーカー公表の指向角が水平90°×垂直60°で、スタンドに取り付ける穴はまっすぐ(0°)と少し下向き(-7°)を選べます。高く上げて少し下に向け、客席がこの範囲に収まるように向けると、むだなく声が届きます。
奥行きのある会場では、音量より「台数」で
体育館や奥に長いホールで、前のスピーカーの音量だけを上げて後ろまで届けようとすると、前の席がうるさくなり、響きも増えて聞き取りにくくなります。こうした会場では、客席の途中に補助のスピーカーを置き、それぞれの音量を控えめにして全体をカバーするほうが、聞きやすい音になります。屋外での考え方は屋外イベントの音響機材の選び方にまとめています。
式次第からキューシート(きっかけ表)を作る
キューシートは、どの場面で、何の音を、何をきっかけに出すかを一覧にした表です。音響担当はこの表を見ながら本番を進めます。式典は音の切り替えが多いため、キューシートの出来が本番の安定感を左右します。
周年式典を例にした構成例です。
| No. | 場面 | 音・マイク | きっかけ | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 開式前 | 客入れBGM(小さめ) | 開場と同時 | 開式5分前に少し下げる |
| 2 | 開式の辞 | BGMを止める → 司会マイク | 司会が司会台に立ったら | |
| 3 | 国歌斉唱 | 国歌の音源 | 司会「ご起立ください」で全員が立ったら | 伴奏のみ/終わったら司会マイク |
| 4 | 式辞 | 演台マイク | 登壇者が演台に着いたら | 演台マイクの角度を確認 |
| 5 | 来賓祝辞 | 演台マイク | 司会が名前を読み上げたら | 来賓の人数分くり返す |
| 6 | 表彰 | 表彰BGM(小さめ)+司会マイク | 受賞者の名前の読み上げ | 授与の間だけBGM |
| 7 | 記念映像 | VTRの音声 | 司会「それではご覧ください」 | 映像担当と同時スタート |
| 8 | 閉式の辞 | 司会マイク | VTR終了後 | |
| 9 | 退場 | 退場曲 | 司会「ご退場です」 | 全員が退場するまで流す |
作るときは、次の3点を押さえます。
- きっかけは「言葉」か「動き」で書く:「司会が〇〇と言ったら」「登壇者が演台に着いたら」のように、誰が見ても同じタイミングがわかる書き方にします
- 音を止めるタイミングも書く:曲の終わり方(自然に終わる/途中で下げて止める)を決めておくと、余韻の残る進行になります
- 司会の台本と番号をそろえる:司会台本とキューシートの番号を合わせておくと、当日の変更があっても伝えやすくなります
キューシートに書く項目や、進行台本の共有のしかたは、イベントの音響トラブルを防ぐ事前確認事項でも紹介しています。

リハーサルで確認すること
リハーサルは、できるだけ本番で話す人に、本番で使うマイクで話してもらいます。全員がそろわない場合でも、次の点は確認しておきます。
| 確認すること | 確かめる中身 |
|---|---|
| 演台マイクの角度と高さ | 背の高い人・低い人のどちらにも合うか。Shureの解説では、グースネックマイクは胸や肩ではなく顔に向けて調整することが勧められています |
| 声の大きさの差 | 声の大きい人・小さい人で音量がそろうか |
| ハウリングの余裕 | 演台・司会台・ステージ上で、ハウリングが起きない音量の上限 |
| ワイヤレスマイクの受け渡し | 客席や来賓席まで持っていく人と動線、電源を入れるタイミング |
| 国歌・入退場曲の頭出し | 前奏の長さ、音量、止めるタイミング |
| VTRの音 | 映像と音が同時に始まるか、音量が声とそろっているか |
| 客席後方での聞こえ方 | 一番後ろの席と端の席で、声が聞き取れるか |
客席に人が入ると、体や服が音を吸うため、響き方が変わります。本番の最初の数分は、音響担当が客席の反応を見ながら音量を細かく合わせます。
PCから動画を流すときに「ブーン」というノイズが乗ることがあります。電源やケーブルの組み合わせで起きるもので、アイソレーター(ノイズを断ち切る機器)を間に入れると抑えられることがあります。アイフィルムでは Radial IceCube を用意しています。
アイフィルムの講演会・式典の音響
アイフィルムでは、新潟県内の式典・講演会・学校行事などの音響を承っています。基本セットは、ヤマハ DXR15 mk3 スピーカー2台、ヤマハ MG20XU ミキサー(20ch)、マイク4本(ワイヤレスの Shure BLX288/SM58 が2本、有線の Shure SM58 が2本)、オペレーター1名で、当日基本料金は1日60,000円(税別)からです。会場に備え付けのスピーカーやマイクと組み合わせ、足りない部分だけを持ち込むこともできます。
映像制作会社なので、オープニング映像の上映や記録撮影、ライブ配信もあわせてお任せいただけます。会場のミキサーの音をそのまま記録や配信に使えるため、あいさつや講演の声をはっきり残せます。体育館での教育イベントでは、音響・映像・会場設営を継続して担当しています。
詳しくは音響PAのページをご覧ください。料金の計算例はイベント音響(PA)の料金はどう決まる?、式典の記録撮影は式典・周年行事・研修の記録撮影、学校での対応は学校・教育イベントの音響と映像で紹介しています。日程と会場が決まった時点で、お問い合わせからご連絡ください。式次第はあとからで構いません。

よくある質問
Q. 会場に音響設備がある場合も、頼む意味はありますか?
あります。会場のスピーカーやミキサーに接続し、足りないマイクや再生機器だけを持ち込むこともできます。キューシートに沿った音出しやマイクの切り替えをオペレーターが担当することで、主催者の方は進行に集中できます。
Q. 式次第がまだ決まっていなくても相談できますか?
できます。日程と会場、おおよその参加人数がわかれば、機材構成と料金の目安をお伝えできます。式次第が固まった段階で、マイクの本数やキューシートを一緒に整えていきます。
Q. 講師が動きながら話すので、ピンマイクを使いたいのですが。
講師が歩きながら話す講演では、ピンマイクやヘッドセットマイクが向いています。使うマイクは、講演のスタイルに合わせてご提案します。
Q. 料金はいくらくらいですか?
機材とオペレーター1名込みで、当日基本料金は1日60,000円(税別)からです。スタッフの追加は1名あたり1日20,000円、前日仕込みは1名18,000円、出張費はエリアごとに0〜15,000円/日(いずれも税別)です。音響PAの料金シミュレーターで目安を確認できます。

