動画制作の内製化が生む成果と業界動向:コスト削減・スピード向上・動画量産のメリット
- 京平 小池

- 22 時間前
- 読了時間: 15分
企業のマーケティングや広報活動において動画コンテンツの重要性が年々増す中、動画制作の内製化(インハウス化)に踏み切る企業が増えています。
動画を自社で制作することで「コスト削減」「制作スピード向上」「制作本数の増加」といった成果が得られると期待されており、業界全体でもその潮流が注目されています。本記事では、動画内製化の背景や導入動機、具体的なメリット、実際の企業事例や業界データ、さらに内製化成功のポイントや今後の展望・課題について解説します。

動画制作を内製化すれば、社内のリソースで企画・撮影・編集まで完結できる。スピード感を持った情報発信やコスト削減につながるとして、多くの企業が取り組み始めている。
動画内製化が進む背景と企業が注目する理由
まず、なぜ今企業は動画制作の内製化に注目しているのでしょうか。その背景には主に次のような要因があります。
デジタル時代の情報発信ニーズの変化: デジタルマーケティングの進化に伴い、短いサイクルで多様なコンテンツを発信することが求められるようになりました。特にSNSではタイムリーな動画投稿が効果を高めるため、外部委託では対応しきれないケースが増えています。迅速な情報発信の必要性が、内製化を後押ししています。
コストと予算上の課題: 外部の制作会社に依頼すると高品質な動画が得られる反面、1本あたり数十万円~数百万円規模の費用と長いリードタイムがかかるのが一般的です。
外注ばかりではマーケティング予算がすぐに枯渇してしまうという声もあり、予算最適化の手段として内製化が注目されています。
動画活用シーンの拡大: かつて動画は特別なプロモーション用途に限られていましたが、現在ではWebサイト、SNS、メールマガジン、社内研修、顧客向け資料などあらゆる場面で活用されています。日常的かつ継続的に動画を制作する必要が生じており、それに対応するため社内に制作体制を整える企業が増えているのです。また、撮影機材や編集ツールの低価格化・多様化により、従来ほど専門知識がなくても一定レベルの動画を作れる環境が整ってきたことも追い風です。
こうした背景から、「効率や予算の観点から動画を内製化したい」と考える企業が増えているのは自然な流れと言えるでしょう。
動画内製化の具体的メリット

動画制作を内製化することで得られる主なメリットとして、コスト削減、制作スピードの向上、そしてコンテンツ制作本数の拡大(量産体制の構築)が挙げられます。それぞれ詳しく見てみましょう。
コスト削減による予算の有効活用
動画を外注せず内製化する最大のメリットは、制作コストを大幅に削減できる点です。
外部業者に依頼する場合、内容にもよりますが安くても数十万円、場合によっては100万円以上かかるのが一般的です。
例えば複数本の動画をまとめて制作しようとすると、外注費は莫大な額に膨らみます。しかし社内で作れば、人件費と機材費程度にコストを抑えられ、動画を欲しいだけ制作しても予算を大きく超えない柔軟な体制が築けます。
初期投資でカメラや編集ソフト等の購入費用はかかるものの、継続的に制作すれば投資回収も見込みやすいでしょう。実際、「継続的に多数の動画を制作する必要がある場合、内製化によって大幅なコスト削減につながる」と指摘されています。
制作スピード向上による迅速な情報発信
内製化すれば動画制作のリードタイムを大幅に短縮できます。外注時には発注・打ち合わせ・企画提案・修正依頼など多くのプロセスが発生し、ちょっとした確認事項にも時間を要しがちです。「問い合わせへの返信に数時間かかる」といった外注先とのやり取りの遅れは珍しくありません。これでは折角の情報もタイミングを逃してしまいます。その点、社内で完結すれば意思決定のスピードが格段に上がり、スピーディーに動画制作に取り組めます。急な修正や追加要望にも柔軟に対応できるため、トレンドに合わせたタイムリーな発信が可能になるのです。この迅速さは、SNS等でリアルタイムに情報発信する現代のマーケティングにおいて大きな武器となります。
制作本数の増加とコンテンツ量産体制の構築
コスト削減とスピード向上の結果として、動画コンテンツの量産が可能になる点も見逃せません。従来は費用面から「年数本の動画制作が限度」という企業も多かったでしょう。しかし内製化により予算内で作れる動画本数が飛躍的に増え、継続的かつ大量のコンテンツ発信が実現できます。
特にSNS向けの短尺動画や自社サイト掲載の動画など、「コストをかけずに量産」すべきカジュアルな動画コンテンツは内製化との相性が抜群です。実際、業界では「リッチな広告用動画とSNS等のカジュアル動画を使い分け、後者を内製化してコストをかけずに量産する動きがトレンドになりつつある」と指摘されています。社内体制で量産できれば、発信頻度を高めて顧客との接点を増やしつつもコストは抑えられるため、マーケティング効率が飛躍的に向上します。
さらに、内製化によって制作のたびに社内にノウハウが蓄積していく点も長期的なメリットです。社内にノウハウが貯まれば動画のクオリティ向上やさらなるスピードアップにもつながり、次第に少人数でも効率よく多くの動画を作れるようになります。このように「作れば作るほど社内資産が増え、将来の制作がより容易になる」好循環を生み出せるのも、内製化の魅力と言えるでしょう。
その他のメリット:柔軟性・メッセージの一貫性
上記の他にも、内製化には柔軟性やメッセージの一貫性といった利点があります。たとえば急な方向転換や内容変更があっても、社内メンバーだけで完結できればスムーズに対応可能です。また、自社の商品やサービスを最も理解している社員が制作に当たるため、訴求ポイントを的確に押さえたコンテンツ作りができます。外部にいちいち自社の強みを説明する手間も省け、ニュアンスのずれた仕上がりになるリスクも低減します。
結果として、ブランドの世界観やトーン&マナーが一貫した動画コンテンツを発信できるようになるでしょう。社外秘情報を含む内容でも社内で完結できれば情報漏洩の心配がない、という点も安心材料です。
業界動向と内製化の成功事例

動画制作の内製化は単なる一企業の話ではなく、業界全体のトレンドになりつつあります。実際、とある調査では約7割もの企業が自社内で動画を制作していると回答し、前年度の約3割から大幅に増加したことが報告されています。わずか1年で内製化率が40ポイントも伸長したこの結果から、市場全体で急速に動画内製化が進んでいることが分かります。
こうした数値上の傾向だけでなく、具体的な成功事例も増えてきました。例えば、老舗スナック菓子メーカーの株式会社湖池屋は、コロナ禍で営業活動のデジタルトランスフォーメーションが求められる中、独自に動画制作の内製化に取り組みました。同社では複数の商品をまとめて効率的に紹介する2~3分程度の動画を社内で制作し、営業ツールとして活用したところ、それらの動画が問い合わせ増加や売上拡大に貢献する成果を上げています。このように「内製動画で成果を出している企業」の事例が登場したことで、内製化への期待感はさらに高まっています。
他にも、IT企業のメルカリや大手IT機器商社の大塚商会など、業種を問わず様々な企業が動画内製化による情報発信力強化を図っていると言われます。SNSマーケティングの先進企業では、SNS向けの動画は内製化でスピーディーに量産し、ブランドCMなど大型案件はプロに依頼するという使い分けも定着しつつあります。このハイブリッドなアプローチにより、「日常的な情報発信は低コストで素早く、自社ブランディングは高品質に」という両立が可能になるわけです。
業界ではまた、動画内製化を支援するサービスやツールを提供する企業も登場しています。例えばJストリーム社は2023年、自社内で継続的に動画を作りたい企業のために「動画内製化支援」サービスを開始しました。ビジネス動画活用が広がる中、「何から始めれば良いかわからない」「内製化したもののクオリティに課題がある」といった企業からの相談が増えたことを受けてのサービス提供です。このように、内製化を後押しする専門支援の存在も、動画内製化の流れが一過性ではなく持続的なトレンドであることを示唆しています。
内製化を成功させるポイントとツール活用例

成果を上げている企業事例から見えてくるのは、動画内製化を成功させるにはいくつかの重要なポイントがあるということです。以下に、内製化を円滑に進めるためのポイントと、役立つツールの例を紹介します。
目的と計画を明確にする:
いきなり闇雲に内製化を始めるのではなく、まずは「動画を活用する目的」「ターゲット」「どんな種類の動画を作るか」「配信媒体」などを具体的に整理しましょう。社内合意の取れた明確な方針がないと、制作途中で方向性がブレてプロジェクト頓挫しかねません。事前にしっかり計画を練ることが成功への第一歩です。
小さく始めてチームで取り組む:
初めて動画制作に取り組む場合、最初は負担が大きく感じられるものです。動画制作は想像以上に多くの工程(企画・撮影準備・撮影・編集・音声調整・字幕入れ・確認など)を経て完成します。そのため、最初から一人で抱え込まずチームを編成して役割分担するのが賢明です。まずは少人数・兼任体制で始め、動画本数の増加に応じて徐々に専任担当を配置する企業も多いようです。社内に映像制作のプロがいなくても、意欲のあるメンバーでチームを組み、試行錯誤しながら進めていきましょう。
手軽で効果的なツールを活用する:
現在はスマートフォンのカメラ性能が飛躍的に向上し、高額な専門機材がなくても十分きれいな動画が撮影可能です。実際、高品質を求めすぎない用途であればスマホと手頃な機材で内製化を進められるケースも多く、「まずはスマホで試し撮り」から始める企業も少なくありません。撮影の際はスマホだけでなく三脚やジンバルを使って手ブレを防いだり、外付けマイクで音声をクリアに拾ったりするとクオリティが向上します。照明も用意できればベストですが、ない場合はレフ板で自然光を反射させる工夫でも補えます。編集についても、最近は初心者でも扱いやすい編集アプリが豊富に登場しています。例えばAdobe Premiere ProやFinal Cut Proのようなプロ仕様ソフトから、無料で使える簡易ツールまで様々ありますので、最初は操作が簡単なものを選び、慣れてきたら段階的に高度なツールに移行すると良いでしょう。中にはPowerPoint感覚で編集できるような企業向けアプリ(例:Photron-Mobile Video Creator等)も登場しており、専門知識がなくても手軽に動画が作れる時代になっています。
ノウハウを標準化・共有する:
内製化を進める中で得られた知見や技術は、都度マニュアル化して社内で共有しましょう。特定のメンバーにノウハウが属人化すると、その人が不在の際に滞ってしまうリスクがあります。動画マニュアルやチェックリストを整備し、誰が関与しても一定のクオリティで作業できる仕組みを作ることが大切です。
マニュアル自体を動画コンテンツにしておけば、新人育成にも役立ち一石二鳥です。
必要に応じて外部の力も借りる:
内製化とはいえ、すべてを独力で抱える必要はありません。昨今は前述の通り内製化支援サービスも充実していますし、「どう進めれば良いかわからない」といった場合には動画制作のサービス提供会社に相談してみるのも一つの方法です。プロからアドバイスを受けたり、特定工程だけ一部支援を受けたりすることで、内製化の立ち上げをスムーズにできるケースもあります。例えば撮影だけ講師を招いて研修する、難しい編集だけ外部に委託する、といった柔軟な組み合わせでハードルを下げている企業もあります。
効果検証と改善サイクル:
内製で動画を作って終わりではなく、公開後の効果をきちんと測定・分析して次回に活かすことも成功には欠かせません。視聴回数やエンゲージメント、問い合わせ数などKPIを追い、何が奏功したか・改善点は何かをチームで振り返りましょう。視聴者からのフィードバックも収集し、「どの部分が響いたか」「伝わりづらかった点はどこか」を洗い出して次の動画制作に反映させることで、回を追うごとにコンテンツの質と効果を高めていくことができます。
以上のポイントを押さえて進めれば、たとえ初めは手探りでも次第に内製化の体制が軌道に乗り、社内で安定的に動画を生み出せるようになるでしょう。
内製化の今後の展望と乗り越えるべき課題

動画内製化には多くのメリットがありますが、同時にいくつかの課題も指摘されています。今後この流れを定着・発展させていくためには、以下のような課題への対処と展望を念頭に置く必要があるでしょう。
1. 制作クオリティの担保: 最大の課題の一つは、プロの制作会社に比べて映像クオリティが見劣りしないかという点です。特に技術面(撮影・編集・音響など)やクリエイティブ面(構成・演出・デザインなど)で社内ノウハウが不足していると、「手作り感」が出て企業イメージを損ねるリスクがあります。この課題に対しては、継続的なスキル習得や他社の優れた動画事例の研究、そして可能ならばプロからの定期的なフィードバックを受けることなどが有効でしょう。最近では社内DXの一環として社員をリスキル(再教育)し、動画編集スキルを身につけさせる動きもあります。幸い、スマホカメラや簡単編集ツールの普及により「専門知識がなくても誰でも手軽に動画を作れる時代」になりつつあります。今後はさらにAIを活用した動画編集補助ツールなども登場することが予想され、未経験者でも一定品質を出しやすい環境が整っていくでしょう(例えば自動で映像をトリミングしたりテロップを生成したりするサービスなど)。
もっとも、企業ブランディング上どうしても高い映像美や独創性が必要なプロジェクトについては、今後も引き続きプロの映像制作会社と協業するケースが残ると考えられます。現実に、多くの企業が「社内で作れるものは作り、ハイクオリティが求められるものは外注する」という住み分けを始めています。このハイブリッド戦略により、内製と外注それぞれの強みを生かしつつ全体最適を図る動きがさらに進むでしょう。
2. 人材リソースと業務負荷: 内製化には人材の確保と育成も不可欠です。動画制作は本来の業務にプラスして行うと担当者に大きな負荷がかかります。少数精鋭で忙しいチームだと、動画制作に割く時間を捻出するのも一苦労です。この課題への対応策としては、経営層が動画活用の重要性を理解した上でリソース配分を見直すことが挙げられます。具体的には、最初は兼務でも良いので担当を正式に割り当てる、成果が見えてきたら専任チームを編成するといった段階的アプローチが有効です。また先述の通り、各メンバーが効率よく作業できるようテンプレートやマニュアルを整備して属人化を防ぐことも重要です。クラウドソーシング等で一部工程のみ外部人材をスポット活用する方法も、負荷軽減に役立つでしょう。
3. マーケ視点・客観性の維持: 内製化では社内メンバーだけで企画から制作まで完結するため、つい身内目線のコンテンツになってしまう恐れもあります。専門用語を使いすぎてしまったり、顧客視点では不要な情報を盛り込みすぎてしまったりといった問題です。これを防ぐには、ペルソナ(想定視聴者像)の設定や、完成後に別部署の人間・実際の営業担当などに見てもらって客観的なフィードバックを得るプロセスを取り入れると良いでしょう。社内だけで閉じず、アンケートやSNS上の反応など社外からの声にも耳を傾けて改善していくことで、内製動画の質は飛躍的に高まります。
以上の課題に留意しつつも、総じて動画制作の内製化は今後ますます広がっていくと考えられます。その背景には、企業側の発信ニーズと技術環境の両面から内製化を後押しする追い風が吹いていることがあります。
市場データを見ると、2020年の動画広告市場規模は約2,954億円で前年比114%と拡大を続け、2024年には6,396億円に達する予測もあります。動画コンテンツの需要は今後も右肩上がりで増えていくでしょう。その膨大なニーズに応えるには、内製化による動画生産能力の向上は企業にとって避けて通れない道とも言えます。
幸い、日本企業の間でも動画内製化のノウハウが蓄積されつつあり、コミュニティや情報共有の場も広がっています。今後は各社が内製化で培ったクリエイティブ力を競い合い、従来は外注に頼っていた分野でも独自色あふれる動画が次々と生み出されるかもしれません。動画制作の内製化は、単なるコスト削減策にとどまらず、企業の発信力とブランド価値を高める戦略的手段として定着していくでしょう。

まとめ
動画制作の内製化は、企業にとってコスト効率の向上、スピーディーな情報発信、そしてコンテンツ量産によるマーケティング強化といった大きな成果をもたらします。デジタル時代にふさわしい柔軟なコンテンツ発信体制として、多くの企業が真剣に取り組み始めている分野です。
もっとも、内製化は魔法の杖ではなく、成功させるには適切な準備と試行錯誤が必要です。社内の意識改革や人材育成、ツール選定など越えるべきハードルもあります。しかし、それらを乗り越えて内製化を軌道に乗せた先には、自社ならではの強力なコンテンツ発信力と、変化に俊敏に対応できるアジャイルな広報・マーケティング体制が築かれることでしょう。
動画需要が高まる今こそ、自社の状況を客観的に分析し、内製化によるメリットと課題を見極めながら一歩踏み出す好機です。「内製化すること自体が目的ではなく、自社の情報発信を効果的に行うための手段である」という原点を忘れずに、ぜひ貴社の動画活用戦略に内製化の選択肢を加えてみてはいかがでしょうか。適切に進めれば、きっとその先に大きな成果が待っているはずです。

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