
合同会社アイフィルムの小池です。
学会や研究大会の事務局の方から、「今年はライブ配信もしたい」「会場に来られない会員のために、あとから見られるようにしたい」というご相談をいただくことが増えました。学会の配信は、一般的なイベント配信と比べて、演者の許諾やスライドの権利、患者情報の扱いなど、事前に決めておくことがたくさんあります。
学会配信を初めて担当する事務局の方に向けて、準備から当日の流れ、費用の考え方までを、実際に準備を進める順に並べました。
学会配信は「ライブ」と「オンデマンド」の組み合わせで考える
学会の配信は、大きく分けて次の2つの方法があります。
- ライブ配信:講演をリアルタイムで届ける方法。会場の熱気をそのまま伝えられ、オンラインからの質問も受けられます。
- オンデマンド配信:録画した講演を、期間を決めて公開する方法。参加者が都合のよい時間に視聴できます。
配信する範囲は、プログラムに合わせて選べます。たとえば「基調講演と特別講演はライブ配信、並行して行われる分科会は収録してあとから公開」という組み合わせにすると、機材と人手を抑えながら、多くのプログラムを届けられます。
それぞれの違いや選び方は、オンデマンド配信とは?ライブ配信との違いと設計ガイドで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

準備1:演者の許諾とスライドの権利を確認する
学会配信の準備で、最初に手をつけたいのが演者(発表者)の許諾です。
配信・録画・公開期間の許諾をまとめて取る
学会発表のスライドなどの資料の著作権は、発表者(演者)にあります。配信や録画を行うには、演者から事前に承諾を得ておくのが基本です。承諾を得ても著作権は演者に残るため、「どこで、誰に、いつまで公開するか」をはっきり伝えておくと、あとで行き違いが起きにくくなります。
演題募集や登壇依頼の段階で、次の項目をまとめて確認しておくのがおすすめです。
| 確認する項目 | 具体例 |
|---|---|
| ライブ配信の可否 | 全編可/一部のスライドのみ不可/配信不可 |
| 録画とオンデマンド公開の可否 | 公開可/ライブのみ可(録画は残さない) |
| 公開範囲と期間 | 参加登録者のみ、大会終了後○週間など |
| 顔や声の映り込み | 登壇者の顔出しの可否、質問者を映すかどうか |
会場で映せても、配信では許諾が必要なことがある
ここは見落とされやすいところです。他人が作った図表や写真、動画をスライドに入れる場合、会場で投影するだけなら、引用(著作権法第32条)や、営利を目的とせず料金も報酬も発生しない上映として認められるケースがあります。
インターネットでの配信は「公衆送信」にあたり、引用の範囲を超える他人の著作物を含む場合は、権利者の許諾が必要になります。日本脳神経外科学会の指針では、オンライン配信による発表では他人が著作権を持つ著作物を使わないよう定めています。
引用として使う場合も、研究などの目的上正当な範囲(引用する分量は必要最小限)にとどめ、出所(著作者名・著作物名・雑誌名・発行年など)をはっきり示すことが求められます。演者向けの案内に、こうした注意点を一言添えておきます。
患者情報・個人情報の扱い
医療系の学会では、症例写真や検査画像に個人を特定できる情報が含まれていないかを必ず確認します。外科関連学会協議会の指針では、氏名やイニシャル、入院番号を記載しないこと、日付は個人が特定されない場合に限り年月までとすること、顔写真は目を隠すこと、画像に含まれる番号を削除することなどが示されています。
会場の参加者だけが見る場合と違い、配信や録画は画面を保存されたり、あとから繰り返し見られたりする可能性があります。演者には「配信される前提でスライドを作ってください」と伝えておくのが確実です。
配信してはいけないページがある場合は、事前に演者からページ番号を聞いておきます。会場スクリーンには映しつつ、配信側だけ別の映像に切り替えることもできます。配信NGのページが映る間だけ、配信には登壇者のカメラ映像や「配信を一時停止しています」の画面を出す、といった運用です。
準備2:視聴範囲・会場・音声を設計する
誰が見られるようにするか
学会配信では、「参加登録をした人だけが見られるようにしたい」というご要望がほとんどです。代表的な方法を整理します。
| 方法 | 仕組み | 向いているケース |
|---|---|---|
| YouTubeの限定公開 | URLを知っている人だけが視聴できる。チャンネルの動画一覧や検索結果には原則として表示されない | 参加者にURLを案内する、比較的オープンな大会 |
| Zoomウェビナーの登録制 | 事前登録を必須にでき、自動承認か手動承認かを選べる | 参加者を名簿で管理したい学会 |
| 参加者専用ページへの掲載 | 学会のサイトなどでID・パスワードを設け、その中に動画を置く | 会員限定、症例を扱う発表が多い学会 |
YouTubeの限定公開は手軽ですが、URLを知っている人なら誰でも見られ、共有もできる仕組みです。URLの再共有を控えてもらうよう案内文に書いておきます。Zoomウェビナーは、登録ページに表示する質問項目を追加でき、手動承認にすれば登録者を確認してから参加の案内を送れます。
オンデマンド配信の期間と編集
オンデマンド配信を行う場合は、次の点を早めに決めておくと、大会後の作業で慌てません。
- 公開期間:大会終了後から何日間公開するか
- 編集の範囲:休憩や機材準備の時間をカットする、セッションごとに動画を分ける、配信不可のスライドを差し替えるなど
- 公開までの日数:編集と確認にかかる時間を見込んで、参加者への案内日を決める
セッションごとに動画を分けておくと、参加者が見たい発表だけを探しやすくなります。
複数会場の配信体制
分科会が並行して進む学会では、すべての会場をライブ配信すると、カメラも人手も会場の数だけ必要になります。メイン会場はスイッチャー(複数のカメラ映像を切り替える機材)を使った本格的な配信、分科会は固定カメラと外部マイクで収録、というように会場ごとに役割を分けると、予算に合わせた体制を組みやすくなります。
スライドは「直接取り込む」と読みやすい
スクリーンをカメラで撮るだけでは、細かい文字がつぶれてしまいます。プロジェクターに送っているパソコンの映像を直接取り込み、スライドを大きく、登壇者を小窓(ワイプ)で合成すると、オンラインでも会場と同じ情報量を届けられます。
座長と質疑の声を拾う
学会配信でよく起きるのが、「講演は聞こえるのに、座長の進行や会場からの質問が聞こえない」という問題です。演台のマイクだけでなく、座長席のマイクと、質問者用のマイク(ワイヤレスマイクやスタンドマイク)を用意し、すべて会場の音響ミキサーを通して配信に送るのが基本です。質問者には「マイクを通して話してください」と座長から一言添えてもらうと、聞き取りやすさが大きく変わります。
リモート登壇がある場合
海外や遠方の演者がオンラインで発表する場合は、演者の映像を会場スクリーンに映し、会場の音声を演者に返す構成が必要です。演者側の通信環境やマイクの確認を兼ねて、事前に接続テストを行っておきます。
当日の流れ:設営からトラブル時の対応まで
一般的な学会配信の当日の流れを、時系列で紹介します。
1. 設営(前日または当日朝)
カメラ、配信卓、ケーブルを設置します。会場が広い場合は、ステージから配信卓まで長いケーブルを引き回し、来場者がつまずかないよう養生(テープなどで固定)します。会場の音響ミキサーから音声をもらう配線も、この段階で行います。
2. リハーサル
カメラの画角、マイクの音量、スライドの表示、演者の入れ替わりの段取りを確認します。可能であれば、実際に限定公開でテスト配信を行い、別の端末で映像と音声を確かめます。リモート登壇がある場合は、接続テストもここで行います。
3. 本番
配信スタッフは、進行表に合わせてカメラとスライドを切り替えながら、配信画面と音声を監視します。休憩中は「休憩中」の画面を出しておくと、視聴者も安心して待てます。
4. トラブル時の考え方
現場では「会場のHDMI端子が映らない」「マイクが混線する」といった予想外のことが起こります。起きる前提で備えておきましょう。予備のケーブルや機材を持ち込む、通信が不安定になったら画質を下げてでも配信を続ける、といった判断基準を事前に決めておくと、慌てずに対応できます。会場設備が使えなかった実例は、新潟市のホテルでのZoom配信レポートで紹介しています。
会場のネット回線そのものが心配な場合は、配信の回線が弱い会場でも大丈夫?Starlinkと回線ボンディングの仕組みもご覧ください。
費用はカメラ台数・会場数・時間・人数で決まる
学会配信の費用は、主にカメラの台数、配信する会場の数、配信時間、スタッフの人数で決まります。アイフィルムのライブ配信の料金目安は次のとおりです。
| 規模 | 料金の目安 |
|---|---|
| ライト配信(カメラ1〜2台・配信2時間まで) | 6.5万円(税別)から |
| スタンダード配信(カメラ2〜3台・配信専用の音声ミックス) | 15万円(税別)から |
| ハイブリッド(会場スクリーン・オンライン登壇者・回線の二重化) | 30万円(税別)から |
会場に音響設備がない場合は、音響PA(当日基本6万円/日、機材+オペレーター1名・税別)を組み合わせることもできます。オンデマンド配信の編集は、本数や編集内容によって変わります。
見積もりを依頼するときは、次の情報をそろえておくと、精度の高い金額をお出しできます。
- 会場の数と、それぞれをライブ配信するか収録のみか
- プログラム(配信する時間帯)
- 公開範囲と配信方法(YouTube限定公開、Zoomウェビナーなど)
- オンデマンド配信の有無と公開期間
- リモート登壇の有無
よくある質問
Q. 学会のZoomアカウントがなくても配信できますか?
主催者様のアカウントでの運用が基本ですが、ご相談に応じて配信環境をご用意することもできます。どの方法が学会の運営に合うか、打ち合わせで一緒に検討します。
Q. 配信できないスライドがある演者がいる場合は?
事前に該当ページを確認し、オンデマンド配信では編集でカットや差し替えを行う方法があります。ライブ配信中の対応も含めて、早めに演者と事務局で整理しておいてください。
Q. 分科会もすべてライブ配信したほうがよいですか?
目的と予算に合わせて選べます。メイン会場はライブ配信、分科会は収録してオンデマンドで公開する組み合わせなら、費用を抑えながら多くの発表を届けられます。
Q. 準備はいつごろから始めればよいですか?
演者の許諾は演題募集や登壇依頼の段階で確認できると理想的です。配信会社への相談は、会場とプログラムの大枠が決まった時点で始めると、下見や機材の手配に余裕が生まれます。
アイフィルムの学会配信
アイフィルムでは、全国規模の研究大会で、メイン会場のYouTubeライブ配信と分科会のアーカイブ配信を担当しました。3カメラでの撮影とスライドのワイプ合成、別会場の分科会の収録、視聴期間を設定したアーカイブ配信まで、一つのチームで対応しています。当日の様子は研究大会のライブ配信の実績レポートで紹介しています。

体制の詳細は学会配信の事例、サービス内容はライブ配信のページをご覧ください。会場に音響設備がない場合は音響PAも承ります。「まだ配信するか決めていない」段階でも、お問い合わせからご相談いただけます。


