
同じスピーカー、同じマイクを使っても、会場が変わると聞こえ方はがらりと変わります。会議室ではちょうどよかった音が、体育館では「わんわん」と響いて言葉が聞き取れない。逆に屋外では、いくら音量を上げても後ろまで届かない。その違いを生んでいるのが、会場の響きです。
会場の響きを決める「残響」と「反射」
残響:音が鳴りやんだあとに残る響き
手をたたいたあと、しばらく「ワーン」と音が残る。これが残響です。響きの長さは「残響時間」で表し、日本建設業連合会の用語解説では、音が止まってから60dB(デシベル)小さくなるまでの時間と説明されています。
同じ解説では、音楽の演奏には1〜2秒程度の響きが適し、話し声の聞き取りやすさを確保するには1秒以下がよいとされています。式典や講演会のように「言葉を届ける」催しでは、響きが長い会場ほど工夫が必要になります。
同じ解説によると、残響時間は部屋の容積に比例し、室内の音を吸う力(吸音力)の合計に反比例します。広くて天井が高い会場や、音を吸いにくい硬い材料に囲まれた会場ほど、響きは長くなります。
反射:壁や天井ではね返る音
スピーカーから出た音は、まっすぐ耳に届く音(直接音)と、壁や天井で一度はね返ってから届く音(反射音)に分かれます。日本大百科全書の「音響設計」の項では、直接音と反射音の時間の差が50ミリ秒以上あると音が分かれて聞こえる(エコー)こと、壁が平行に向かい合っているとフラッターエコー(音が往復して「ビーン」と鳴く現象)が起きやすいことが説明されています。
言葉を届ける場面では、反射音や残響が多すぎると、言葉の輪郭がぼやけて聞き取りにくくなります。
客席の人数でも響きは変わる
コトバンクに収録されている「音響設計」の解説では、残響時間は部屋の容積や内装だけでなく、座席や人が音を吸う力も含めて計算できるとされています。人も音を吸うため、同じ会場でも客席が埋まると響きは短めになり、空席が多いと響きが残りやすくなる傾向があります。
- リハーサルの響きは本番より長い:参加者のいない会場での音出しは本番より響いて聞こえるため、本番の最初の数分で音量や音質を合わせ直す前提で準備します
- 人数に対して会場が広いときは、客席を前に寄せる:200席の会場に80人なら、使う席を前方にまとめ、スピーカーもそのエリアに向けると、むだな反射を減らせます
会場の種類ごとの響き方とスピーカー配置
会場ごとの響きの傾向と、スピーカー配置の考え方をまとめました。実際の響きは同じ種類の会場でも違うため、あくまで目安です。
| 会場 | 響きの傾向 | スピーカー配置の考え方 |
|---|---|---|
| 体育館 | 容積が大きく、板張りの床や硬い壁で反射が多い。響きが長くなりやすい | 高い位置から客席に向けて、壁や天井に当てない。奥行きがあれば補助スピーカーを追加 |
| ホール | 用途に合わせて響きが設計されていることが多い。音楽向けは響きが長め | 備え付けの設備の位置と特性を確認し、足りない部分を補う |
| ホテル宴会場 | じゅうたんやカーテンなど音を吸う内装が多い会場では、響きは短めになりやすい。横に広い会場も多い | 円卓の配置に合わせ、端の席まで届くよう左右に広げる |
| 会議室 | 狭く響きは少なめ。ガラス面や平行な壁で反射が出ることも | 小型のスピーカーで十分なことが多い。マイクとの距離を確保 |
| 屋外 | 反射がほとんどなく、直接音だけで届ける | 高さと台数で距離を補う |
体育館:壁や天井に音を当てない
音響機器メーカーのTOAは、多くの体育館が板張りの床と、音を吸う構造になっていない天井や壁に囲まれているため反射が起こりやすいと説明しています。ステージ側のスピーカーだけで後ろの壁まで届けようとすると音量を上げることになり、スピーカーの近くがうるさくなってハウリングも起きやすくなります。
TOAの資料では、奥行き30mの一般的な体育館で、スピーカーを高さ約4mに設置し、下向き0〜3°の範囲で角度を調整する例が紹介されています。必要な場所に音を向け、壁や天井にむだな音を当てない。響く会場ではこれがいちばんの基本です。
ホール・宴会場・会議室
ホールは、もともと用途に合わせて響きが設計されていることが多いため、備え付けのスピーカーの位置や向きを確認し、足りない部分を補います。宴会場は横に広い会場も多く、左右の端の席まで声が届くかを確かめます。会議室は、ガラス窓や平行な壁による反射に気をつけます。
屋外
屋外には壁や天井の反射がほとんどないため、スピーカーから届く直接音だけで会場をカバーします。距離による音の減り方や、雨・風・電源への備えは屋外イベントの音響機材の選び方で詳しく紹介しています。

スピーカーの高さ・向き・距離と、マイクとの位置関係
高さと向き:客席に向け、壁や天井から外す
スピーカーは、客席の頭より高い位置に上げ、少し下に向けて客席に向けるのが基本です。高く上げると前の人の体にさえぎられにくくなり、下に向けると後ろの壁や天井に当たる音を減らせます。
スピーカーには、音がよく届く角度の範囲(指向角)があります。例えばヤマハ DXR15 mk3 は、メーカー公表の指向角が水平90°×垂直60°です。この範囲に客席が収まり、壁や天井ができるだけ外れるように向けると、反射の少ない、はっきりした音になります。
距離:近い席ほど直接音が多い
スピーカーに近い席では直接音の割合が大きく、遠い席では反射音や残響の割合が大きくなります。響く会場で後ろの席の言葉が聞き取りにくくなるのはこのためです。ヤマハの解説では、一方向・一か所にまとめたスピーカーに加えて、明瞭さや音量が足りないエリアに補助のスピーカーを置く配置が、大きな空間や響きの多い会場で、音の方向感を保ちながら全体に均一な音量を届けたい場合に用いられると紹介されています。
同じ解説では、反射音を考えない場合の目安として、距離が2倍になるごとに音の大きさは6dBずつ小さくなると説明されています。32m先で100dBを得ようとしてスピーカーを130dBで鳴らすと、最前列の人がその大音量を直に受けてしまう、という例も挙げられています。音量を上げるより、台数と置き場所で届けると考えます。
マイクとの位置関係とハウリング
ハウリングは、スピーカーの音をマイクがもう一度拾い、増幅をくり返して「キーン」「ボー」と鳴る現象です。ヤマハの解説では、会場の音響特性によって特定の高さの音が強調されることが原因の一つとされています。響きの多い会場では、壁や天井ではね返った音もマイクに戻るため、ハウリングが起きやすくなります。
ヤマハが挙げる基本の抑え方は、必要な音量が得られる範囲で音量を下げることと、マイクとスピーカーの距離を離したり向きを変えたりすることです。それでも抑えられない場合は、イコライザーを使った対策が必要とされています。配置では、スピーカーを演台や司会台のマイクより客席側に置き、演台の後ろが硬い壁やガラス面なら、はね返った音がマイクに戻らないよう向きを調整します。客席で質疑応答をする場合は、補助スピーカーの近くでのマイクの音量も確認しておきます。具体的な配置例は講演会・式典の音響セッティングの基本で紹介しています。
ディレイスピーカー(遅延をかけた補助スピーカー)の考え方
なぜ遅らせるのか
奥行きのある会場で、客席の途中に補助のスピーカーを置くと、その近くの人には、ステージのスピーカーより先に補助スピーカーの音が届きます。音は空気中を少しずつ進むため、遠いステージからの音は遅れて届くからです。すると、声が横や後ろから聞こえたり、同じ声が二重に聞こえたりします。
そこで、補助スピーカーの音をわざと遅らせて、ステージからの音とタイミングをそろえます。これがディレイスピーカーです。
遅らせる時間の目安
音の速さは、気温をT℃とすると「331.5+0.6T(m/秒)」で表されます(村田製作所の解説)。気温20℃なら秒速約343mで、1m進むのに約2.9ミリ秒かかる計算です。
| ステージのスピーカーから補助スピーカーまでの距離 | 音が届くまでの時間(20℃) |
|---|---|
| 10m | 約29ミリ秒 |
| 15m | 約44ミリ秒 |
| 20m | 約58ミリ秒 |
| 30m | 約87ミリ秒 |
実際には、この時間にさらに少し上乗せします。測定器メーカーのNTi Audioの資料では、人は先に届いた音の方向から聞こえると感じる性質(ハース効果)を利用し、補助スピーカーに最も近い客席で計った時間差に15ミリ秒を足す方法が紹介されています。こうすると、声はステージの方向から聞こえたまま、後ろの席にも十分な音量を届けられます。同じ資料では、後から届く音の遅れが5〜35ミリ秒なら響きとして聞こえて方向感は変わらず、35ミリ秒以上遅れるとエコーとして聞こえるとされています。調整は会場で音を聞きながら細かく行います。
遅延をかけるには、ディレイ機能を持つ機器が必要です。会場の奥行きや客席の配置によって必要かどうかが変わるため、広い会場での開催はご相談ください。
下見で確かめておく8つのこと
会場の響きは、図面や写真だけではわかりにくいものです。下見では次の点を見ておくと、スピーカーの台数や配置を決めやすくなります。
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 天井の高さ・会場の広さ | 容積が大きいほど響きは長くなる |
| 壁・床・天井の材料 | 板張り、コンクリート、ガラスなど硬い面が多いか。じゅうたんやカーテンがあるか |
| 向かい合う平行な壁 | 手をたたいて「ビーン」と鳴くような響きがないか |
| 客席の奥行きと幅 | ステージから最後列までの距離。補助スピーカーが必要か |
| スピーカーの置き場所 | 客席の頭より高く上げられるか。通路や非常口をふさがないか |
| 演台・ステージの位置 | マイクとスピーカーの位置関係。演台の後ろの壁の材料 |
| 備え付けの設備 | 天井や壁のスピーカーの位置。持ち込みの機材と組み合わせられるか |
| 電源 | スピーカーやミキサーを置く場所の近くに使えるコンセントがあるか |
手をたたいて響きの長さを聞くだけでも、その会場の性格はかなりわかります。下見ができない場合は、会場の写真や図面、天井の高さ、内装の材料を会場の担当者に聞いておきます。
アイフィルムの音響PAと会場に合わせた機材
アイフィルムでは、新潟県内の式典・講演会・学校行事・地域のお祭りなどの音響PAを承っています。必要に応じて会場の下見を行い、会場の広さや響き、電源の位置を確認したうえで機材構成を決めます。
基本セットのスピーカーは、ヤマハ DXR15 mk3(2台)です。会場に合わせて、サブウーファー(ヤマハ SW1181V)、パッシブスピーカー(ヤマハ BR15、ラムサ WS-A200)、コンパクトスピーカー(BOSE 101MM)、ハウリング対策に使うグラフィックイコライザー(ベリンガー FBQ6200)なども組み合わせます。会場に備え付けのスピーカーと組み合わせ、足りない部分だけを持ち込むこともできます。
当日基本料金は、機材とオペレーター1名込みで1日60,000円(税別)からです。詳しくは音響PAのページをご覧ください。料金の計算例はイベント音響(PA)の料金はどう決まる?、学校での対応は学校・教育イベントの音響と映像で紹介しています。会場が決まったら、お問い合わせから会場名とおおよその参加人数をお知らせください。
よくある質問
Q. 体育館で声が響いて聞き取りにくいのですが、音量を上げれば解決しますか?
音量を上げると響きも大きくなり、かえって聞き取りにくくなることがあります。スピーカーを高く上げて客席に向け、壁や天井に当たる音を減らすこと、奥行きがある場合は補助のスピーカーで後方を補うことが効果的です。
Q. 会場に備え付けのスピーカーがある場合も、持ち込みが必要ですか?
会場の設備で足りる場合もあります。備え付けのスピーカーの位置や向き、ミキサーの入力数を確認し、足りない部分だけを持ち込むこともできます。
Q. 下見はしてもらえますか?
必要に応じて会場の下見を行い、スピーカーを置ける場所や電源の位置、響き方を確認したうえで機材構成を決めます。
Q. ディレイスピーカーは必要ですか?
会場の奥行きや客席の配置、参加人数によって変わります。広い会場や奥に長い会場での開催は、会場の情報とあわせてご相談ください。


