
合同会社アイフィルムの小池です。
動画の見積もりや制作の工程表に「カラーグレーディング」「カラコレ」と書かれているのを見て、何をする作業なのか気になったことはありませんか。どちらも「色を調整する作業」ですが、目的が少し違います。
同じ映像でも、色の仕上げ方ひとつで、親しみやすい印象にも高級感のある印象にも変わります。ここでは動画の色づくりの基本と、発注するときに伝えておくとイメージのずれが減る情報をまとめました。
カラーコレクションとカラーグレーディングの違い
動画の色の調整は、一般に次の2段階に分けて考えます。
| カラーコレクション(色の補正) | カラーグレーディング(色の演出) | |
|---|---|---|
| 目的 | 映像を「正しい色」に整える | 映像を「伝えたい雰囲気の色」に仕上げる |
| 主な作業 | 明るさ・コントラストの調整、色かぶりの補正(ホワイトバランス)、カット同士の色の差をそろえる | 暖かい・冷たい・落ち着いたなどの色調づくり、ブランドや作品の世界観に合わせた色 |
| 順番 | 先に行う | 補正のあとに行う |
たとえば、室内の照明が黄色っぽく映ってしまった映像を自然な色に戻すのがカラーコレクション、その映像を「夕方のような温かい雰囲気」に仕上げるのがカラーグレーディングです。土台が整っていない状態で雰囲気づくりを始めると、カットごとに色がばらついてしまうため、まず補正、次に演出という順番で進めます。

Log撮影とLUT:あとで色を作るための仕組み
Log撮影とは:あとで色を作るための撮り方
最近の撮影用カメラには、「Log(ログ)」と呼ばれる撮影方式があります。ソニーのS-Log、DJIのD-Logなどがその例です。
ソニーは、S-Logを「広いダイナミックレンジ(明るいところから暗いところまで記録できる幅)を持つガンマカーブ」で、撮影後のポストプロダクション(編集段階)でグレーディングを行うことを前提に最適化されたものと説明しています。ソニーのビデオカメラFDR-AX700の紹介ページでも、S-Log2・S-Log3は「グレーディング(撮影後の画像加工処理)をすることが前提の機能」と案内されています。
Logで撮った映像は、そのまま見るとコントラストが低く、白っぽく眠たい色に見えます。ソニーの解説では、Rec.709向けの画面ではLogの広い色の範囲をすべて表示できないため、コントラストが足りないように見えると説明されています。明るい空と暗い室内が同じ画面にあるような場面でも、白飛び(明るい部分が真っ白になること)や黒つぶれ(暗い部分が真っ黒になること)を抑えて情報を残しておき、編集で色を作り込むための撮り方です。
LUTとは:色を変換する「対応表」
LUT(ルックアップテーブル)は、映像の色を決まったルールで置き換えるための数値の表です。ソニーの説明では、LUTは「映像に適用して見た目を変えるための固定の数値の表」で、S-Log3の映像をRec.709の表示向けに変換するような「技術的なLUT」と、さまざまな雰囲気を作るための「クリエイティブなLUT」があるとされています。
ソニーは、明るさを中心に調整する1D LUTに対し、3D LUTはRGBそれぞれの色の色相・彩度・明るさを制御できると紹介しています。撮影中にLogの映像がモニターで眠たく見えないよう、カメラの「ガンマ表示アシスト」でLUTを当てて確認する方法も案内しています。
LUTは便利な出発点で、仕上がりを決めるのはその後の調整です。撮影条件はカットごとに違うため、LUTを当てたあとに明るさや色を一つひとつ整えていきます。
アイフィルムのカメラと対応する撮影方式
アイフィルムの所有カメラのうち、メーカーの公式情報でLogやHDR(HLG)の撮影に対応していることを確認できた機種は次のとおりです。
| 機種 | メーカー公式情報で確認できた主な対応 |
|---|---|
| SONY α7S III | S-Log2・S-Log3、HLG、4K 4:2:2 10bit記録 |
| SONY α7 IV | S-Log2・S-Log3、S-Cinetone、HLG、4K 4:2:2 10bit記録 |
| SONY HXR-NX80 | HLG方式による4K HDR、S-Log3/S-Gamut3などの収録 |
| SONY FDR-AX700 | S-Log2・S-Log3、HLG方式の4K HDR、S-Gamut3.Cine |
| DJI Mavic 3 Pro Cine | D-Log(ハッセルブラッドカメラ)、D-Log M・HLG(10bit)、Apple ProRes記録 |
雰囲気・肌の色・複数カメラ:色づくりの実際
ブランドや作品の雰囲気に合わせる
カラーグレーディングでは、映像の目的に合わせて色の方向性を決めます。
| 伝えたい印象 | 色づくりの方向の例 | 向いている動画 |
|---|---|---|
| 親しみやすさ・明るさ | 明るめ、やや暖かい色、やわらかいコントラスト | 採用動画、学校や地域の紹介 |
| 信頼感・誠実さ | 自然な色、クリアな白、ほどよいコントラスト | 会社紹介、インタビュー |
| 高級感・落ち着き | 彩度を少し抑え、黒を締める | 商品・ブランドのプロモーション |
| 爽やかさ・先進性 | 白を青寄りに、すっきりしたコントラスト | IT・製造業の紹介、展示会映像 |
コーポレートカラーがある場合は、全体の雰囲気を作りながら、ロゴや商品の色は実物とずれないように調整します。
肌の色は「自然に見えること」が最優先
人が映る映像では、肌の色がとても目立ちます。全体の色調を大きく変えても、肌が青白かったり赤すぎたりすると、見る人は違和感を覚えます。
アドビの解説では、色の分布を表示する「ベクトルスコープ」という計測画面に、肌の色の目安となる「スキントーンライン」が示され、このラインは肌の色の違いにかかわらず、すべての人に当てはまるとされています。同じ解説では、撮影時にカメラのホワイトバランスを正しく設定しておくことにも触れています。撮影の段階で光を整えておくほど、編集での色の調整も自然に仕上がります。
複数カメラの色をそろえる
式典やインタビューを2台以上のカメラで撮ると、機種やレンズ、角度の違いで、同じ場面でも色味が少しずつ変わります。そのまま切り替えると、カットが変わるたびに色が変わって見えてしまいます。
編集ソフトには、カメラ間の色をそろえる機能があります。たとえばAdobe Premiere Proでは、同じ場面を別のカメラで撮った映像同士の色を合わせる「カラーマッチ」の機能が案内されています。ただし、自動の調整はあくまで出発点で、最後は人の目で確認して仕上げます。撮影時に各カメラのホワイトバランスや設定をそろえておくと、仕上がりも安定します。その場で映像を届けるライブ配信では、撮影時の設定合わせがそのまま仕上がりになります。

作り込みすぎに注意
色の演出は、強くかけるほど印象的になる一方で、やりすぎると内容が伝わりにくくなります。
- 肌の色が不自然になる:雰囲気を優先しすぎて、顔色が悪く見える
- 暗い部分・明るい部分の情報が失われる:コントラストを強くしすぎて、黒い服の質感や空の色が見えなくなる
- 商品やロゴの色が変わる:色調に引っ張られて、実物と違う色に見える
- 見る環境で印象が変わる:編集用のモニターでは良くても、スマートフォンでは暗すぎる
ソニーも、S-Logで撮った映像のグレーディングには技術的な知識が必要で、事前にテスト撮影でグレーディングを含めた画質を確認するよう案内しています。完成した映像は、実際に使う画面(スマートフォン、会場のスクリーンなど)でも一度見ておくと、見る環境による印象の違いに気づけます。
SDRとHDR、色の規格の基本
Rec.709:一般的な映像(SDR)の基準
色の仕上げには、「どの規格の画面で見せるか」という基準があります。一般的な映像の基準になっているのが、国際電気通信連合(ITU)の勧告「ITU-R BT.709」(Rec.709)です。ハイビジョン(HD)の制作や番組交換のための規格で、明るさの幅が従来どおりの映像を「SDR(スタンダード・ダイナミック・レンジ)」と呼びます。
HDR:より広い明るさと色の幅
HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)は、SDRより明るいところから暗いところまでを広く表現できる映像です。ITUの勧告「ITU-R BT.2100」でHDRテレビの映像の規格が定められていて、方式にはPQとHLGがあります。HLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)はNHKとBBCが共同で開発した方式で、従来のテレビ方式との高い互換性を持つとされています。ソニーの業務用カメラHXR-NX80の紹介ページでは、HLG方式で記録した映像は撮影後のカラーグレーディングを必要としないため、時間の短縮にもつながると案内されています。
YouTubeのヘルプでは、HDR動画をアップロードする場合、伝達関数はPQまたはHLG(Rec.2100)、色域はRec.2020で仕上げるよう案内されています。HDRに対応していない端末では、SDRの動画として再生されます。
| SDR | HDR | |
|---|---|---|
| 主な規格 | ITU-R BT.709(Rec.709) | ITU-R BT.2100(PQ・HLG)、色域はRec.2020 |
| 特徴 | 多くの画面でそのまま同じように見せやすい | 明るい部分・暗い部分の階調や色をより豊かに表現できる |
| 向いている用途 | Web・SNS・会場での上映など幅広い用途 | HDR対応のテレビや端末で見てもらう映像 |
どちらで仕上げるかは「見せる場所」で決める
HDRは表現の幅が広い一方で、見る側の画面がHDRに対応している必要があります。会場のプロジェクターや社内のパソコンで上映する場合など、多くの場面ではSDRで仕上げるのが扱いやすい選択です。どこで、どの画面で見てもらうかを最初に共有しておくと、適した仕上げ方を選べます。
発注時に伝えておきたい5つの情報
色の好みは言葉で伝えにくいものです。次のような情報があると、制作側とイメージをすり合わせやすくなります。
| 伝えること | 例 |
|---|---|
| 参考作品 | 「この動画のような色味にしたい」というURLや画像。好きな点や、避けたい例も添える |
| 伝えたい印象 | 明るく親しみやすい、落ち着いた高級感、爽やかで先進的 など |
| ブランドカラー | コーポレートカラーの色番号、ロゴデータ、正しい色の商品見本 |
| 見せる場所 | YouTube・SNS、会場のスクリーン、展示会のモニター、テレビ など |
| 確認する人 | 社内で色の最終確認をする方と、確認に使う画面 |
よくある質問
Q. カラーグレーディングをすると費用は上がりますか?
色の作り込みにこだわるほど、編集の作業時間は増えます。映像の用途とご予算に合わせて、どこまで色を作り込むかをご提案します。
Q. スマートフォンで撮った映像も色を整えられますか?
撮影した端末や設定によって、調整できる幅は変わります。お手元の映像を拝見したうえで、できることをご案内しますので、ご相談ください。
Q. 昔の映像の色を整えたり、白黒映像に色を付けたりできますか?
白黒映像に色を付けるカラー化は、カラーグレーディングとは別の作業です。アイフィルムではモノクロ映像のカラー化にも対応しています。詳しくは白黒映像のカラー化の記事をご覧ください。
Q. 色の修正は納品前に確認できますか?
はい。初稿の段階で色味も含めてご確認いただき、修正のご希望を反映します。軽微な修正の回数と範囲は、事前に取り決めて進めます。
アイフィルムでの色の仕上げ
アイフィルムでは、Apple Final Cut Pro、Adobe Premiere Pro、After Effectsを主に使って編集を行っています。プロモーション動画をはじめ、会社紹介や採用動画など、映像の目的に合わせた色づくりをご提案します。ドローン空撮でも、撮影した素材を編集・カラーグレーディングして、一つの映像作品に仕上げることができます。
撮影に使う機材は機材のページで紹介しています。機材の違いが映像のどこに効くのかは、撮影機材で映像はどう変わるかの記事もあわせてご覧ください。相談の材料は、「この雰囲気の色にしたい」という参考作品ひとつで足ります。お問い合わせからどうぞ。
参考にした情報
- What is S-Log?(ソニー サポート)
- FDR-AX700 特長:撮影機能(ソニー)
- Using Picture Profile presets with S-Log|Shooting with S-Log for color grading(ソニー)
- LUT library(ソニー プロフェッショナル)
- α7S III 主な仕様(ソニー)
- α7 IV 主な仕様(ソニー)
- HXR-NX80 特長(ソニー)
- DJI Mavic 3 Pro 仕様(DJI)
- Correct skin tones(Adobe)
- Match clip color in a scene(Adobe)
- Recommendation ITU-R BT.709(ITU)
- Recommendation ITU-R BT.2100(ITU)
- High dynamic range television for production and international programme exchange(ITU)
- ハイ ダイナミック レンジ(HDR)動画をアップロードする(YouTube ヘルプ)
- 東芝、REGZA Z20XがHDR放送に対応。スカパー! 4KのHLG方式(AV Watch、2016年7月29日)


