
撮影した素材をどこまで受け取り、誰がいつまで保管するかは、依頼する前に決めておきたい項目です。動画が納品されたあとに「撮影した映像を別の動画にも使いたい」と考えても、手元にあるのが完成した動画だけだと、思うように使えない場合があるからです。
撮影後の素材(生データ)の納品と保管について、データの種類、契約前に決めておく4つのこと、容量と納品方法、著作権・ライセンス、自社での保管のコツを発注する側の目線でまとめました。相談から納品までの全体の流れは動画制作の流れで紹介しています。
「完成データ」と「素材データ」は別のもの
制作会社から受け取るデータは、大きく分けると次の3種類です。
| 種類 | 中身 | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 完成データ | 編集が終わった動画ファイル(MP4・MOVなど) | Webサイト・SNS・イベントでの公開や上映 |
| 素材データ(生データ) | 編集前の撮影データ。カメラで記録したままの映像・音声、ドローン映像、写真など | 別の動画への流用、静止画の切り出し、記録としての保管 |
| プロジェクトファイル | 編集ソフトの作業データ。どの素材をどの順につなぎ、どこにテロップや音を入れたかの情報 | 後日の修正、尺違いや別バージョンの作成 |
完成データは「見るためのデータ」、素材データは「作り直すための材料」、プロジェクトファイルは「編集の設計図」と考えてください。納品物に何を含めるかは契約で決める項目なので、素材も受け取りたい場合は見積もりの段階で伝えておきましょう。
プロジェクトファイルは「開ける環境」も確認を
プロジェクトファイルは、それだけでは動画になりません。同じ編集ソフト(場合によっては同じバージョン)で開き、使った素材ファイルやフォントがそろって、はじめて編集した状態を再現できます。「あとで自社でテロップを直したい」といった目的があるなら、社内で対応できる方法も含めて制作会社に相談してください。

素材を受け取りたいときに契約前に決める4つのこと
素材の受け渡しで行き違いが起きやすいのは、「もらえると思っていた」「そこまで含むとは思っていなかった」という認識のずれです。契約前に次の4つを決めておきます。
| 決めること | 具体的な内容 | 決めておかないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 範囲 | 撮影したすべてのカットか、完成動画に使ったカットだけか。音声・写真・ドローン映像を含むか | 欲しかった場面が入っていない |
| 形式 | カメラで記録したままのファイルか、扱いやすい形式に書き出し直したものか | 社内のパソコンで再生できない |
| 費用 | データの選別・コピー・確認の作業費、記録媒体(HDD・SSD)の費用 | 後から追加費用の話になる |
| 時期 | 完成データと同時か、公開後か。受け取りの期限 | 気づいたときには保管期間が過ぎている |
範囲は「何に使うか」から逆算すると決めやすくなります。来年以降の動画にも使いたいなら、完成動画に使わなかったカットも含めて受け取る価値があります。業務用カメラのデータは容量が大きく、フォルダ構成もカメラ独自の形になっていることがあるため、社内で手軽に見返したいだけなら、見やすい形式に書き出し直してもらう方法もあります。
素材の納品には、データの選別やコピー、すべてのファイルが開けるかの確認、記録媒体の準備といった作業が伴います。完成データとは別に費用がかかる場合があるため、金額もあわせて確認しておきましょう。
撮影データの容量と納品方法
容量は「ビットレート×撮影時間」で決まる
素材データは、思っている以上に大きくなります。
例として、ソニーのミラーレスカメラ α7 IV のヘルプガイドでは、4K(3840×2160)の記録方式「XAVC S 4K」のビットレートが60〜200Mbps、圧縮方式がIntraの「XAVC S-I 4K」が240〜600Mbps、フルHDの「XAVC S HD」が16〜100Mbpsと案内されています。この範囲の数字で、カメラ1台で1時間撮影したときのデータ量を計算すると次のとおりです。
| ビットレートの例 | 1時間あたりのデータ量(計算上の目安) |
|---|---|
| 50Mbps(フルHD) | 約22.5GB |
| 100Mbps(4K) | 約45GB |
| 200Mbps(4K) | 約90GB |
| 600Mbps(4K・XAVC S-I) | 約270GB |
※1GB=1,000MBとして計算しています。実際のファイルサイズは設定や撮影内容によって前後します。
複数のカメラで撮影すると、この数字が台数分増えます。たとえば100Mbpsのカメラ3台で2時間の式典を撮影すると、計算上は約270GBです。ドローン映像や別録りの音声、写真が加われば、撮影の規模によっては素材一式が1TBを超えることもあります。受け取る前に総量を制作会社に確認しておくと、受け取り方法や保存先を選びやすくなります。
クラウド・HDD・SSDの違い
| 方法 | 向いている場面 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| クラウド(ダウンロード) | 完成データや、量が比較的少ない素材 | 大容量だと時間がかかる。ダウンロードの期限が設定されていることがある |
| HDD(ハードディスク) | 大容量の素材をまとめて受け取り、そのまま保管する | 機械部品を使っており、落下や衝撃に注意が必要 |
| SSD | 大容量の素材を素早くコピーしたい、持ち運ぶ機会が多い | 容量あたりの費用はHDDのほうが抑えやすい |
記録メディアのメーカーであるSandiskの解説では、SSDは可動部がなくHDDより高速であること、HDDは回転ディスクなどの機械部品を使うため多くのSSDほど落下や衝撃に対応できない可能性があること、一方でHDDはコスト効率に優れ大容量であることが紹介されています。
HDDやSSDで受け取る場合は、媒体の費用をどちらが負担し、返却するのか保管用に使うのかも決めておきましょう。
著作権と素材の扱い
文化庁の『誰でもできる著作権契約マニュアル』では、著作権は原則として作った人(著作者)が持ち、依頼した側に帰属させたい場合は契約でその旨を定める必要があると説明されています。絵画を購入して取得するのは「所有権」であり、それで「著作権」を取得することにはならず、著作権を取得したい場合は別に譲渡の合意が必要だとしています。
素材データも同じです。データを受け取って手元に持つことと、その映像の著作権を持つことは別の話です。受け取った素材で何ができるかは、契約で決めた著作権の扱いと利用の範囲によって決まります。
素材を使って別の動画を作るなら
同マニュアルでは、著作権をすべて譲り受ける場合でも、契約書に「著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む」と明記しないと、作り変える権利など二次的著作物に関する権利は譲渡の対象ではないと推定されると説明されています。利用を許諾してもらう形なら、認める利用方法を明確にし、期間や地域も定めておくことが重要とされています。著作者人格権(作品を勝手に変えられない権利など)は譲渡の対象とならず、この権利を行使しない旨を契約で定める例があることも紹介されています。
素材を受け取る目的が「自社で編集し直して別の動画を作ること」なら、その使い方が契約の範囲に入っているかを確認しておきましょう。
BGMや素材サイトの素材はライセンスの確認を
完成動画に使ったBGMや素材サイトの写真・映像は、制作会社がライセンス(利用の許可)を取得して使っている場合があり、素材データやプロジェクトファイルに一緒に入っていることがあります。
例として、Adobe Stockの利用条件(Adobe Stock 製品固有利用条件、2026年1月16日更新)では、第三者が素材を独立したファイルとして、またはライセンスの範囲を超えて使用・ダウンロード・抽出できるような方法での利用を禁じています。クライアント(依頼主)の案件のために購入したライセンスについては、購入した権利は購入した側とクライアントのどちらか一方だけに帰属し、複数のプロジェクトで再利用できるのもどちらか一方だけと定められています。
プロジェクトファイルの中の素材を、別の動画で自由に使い回せるとは限りません。条件はサービスやプランごとに違うため、流用したい場合は、どの素材がどの条件で使われているかを先に確かめます。BGMの規約の考え方は動画BGMの基本ルール7選でも紹介しています。
保管期間・保管責任と、自社で保管するコツ
後から困りやすいのが、「制作会社がずっと持っていてくれると思っていた」というケースです。制作会社がいつまで素材を保管するかは、会社や契約によって異なります。契約の段階で、次の点を確認します。
- 制作会社が保管する期間と、期間が過ぎたあとの扱い(削除するのか、引き渡すのか)
- 保管期間を延ばしたい場合の対応と費用
- 受け取ったあと、社内のどの部署・担当者が管理するのか
- 出演者や参加者が映っている素材を、どの範囲で使い、どう管理するのか
受け取った素材は、担当者の異動があっても引き継げるよう、部署として管理する前提で考えておきます。
3-2-1ルールでコピーを持つ
バックアップの方法としてよく知られているのが「3-2-1ルール」です。データを3つ持ち(運用データ1つ、バックアップデータ2つ)、2種類の異なる媒体でバックアップし、そのうち1つは異なる場所(遠隔地などネットワークと切り離された場所)で保管する方法です。バックアップ機器をネットワークにつないだままにしておくと、ウイルスの被害にあったときにバックアップデータまで暗号化されるおそれがあるためです。
| コピー | 動画素材での保管先の例 |
|---|---|
| 1つ目(普段使うデータ) | 社内のパソコンやファイルサーバー |
| 2つ目(バックアップ) | 外付けHDD |
| 3つ目(別の場所のバックアップ) | 外付けSSDなど別の種類の媒体を、別の拠点でネットワークから切り離して保管 |
「探せる」「開ける」状態を保つ
- フォルダ名を「撮影日_案件名_内容」のように、決まったルールでそろえる
- 撮影日・場所・内容・映っている人・利用の条件をまとめた一覧表をつくる
- 契約書や利用範囲の取り決めを、素材と同じ場所に保管する
- ときどき再生できるかを確かめ、必要に応じて新しい媒体へ移し替える
古い映像を残すときの考え方は、VHSテープのダビングは早めにでも紹介しています。
アイフィルムでの納品と権利の扱い
アイフィルムでは、納品形式をご用途に合わせて選んでいただけます。動画はMP4・MOV、音声はWAV・MP3などで納品し、SNS用の縦型や尺違い、字幕入りといった派生版にも対応しています。ドローン空撮では、撮影した素材をそのままご提供することも、編集・カラーグレーディング(色の調整)を行って映像作品に仕上げることもできます。
著作権・使用権は、制作物の利用範囲(媒体・期間・地域)を契約で定めます。映像の著作権は契約内容によって変わりますが、基本的にはアイフィルムに帰属します。音楽は権利処理の方針も含めて設計し、オリジナルBGMなどの著作権譲渡は別途お見積りで承ります。
撮影した素材を別の用途にも使いたい場合は、お見積りの段階でお知らせください。初回のヒアリングと概算見積もりは無料です。納品形式や著作権についての回答はよくある質問にもまとめています。ご連絡はお問い合わせから。
よくある質問
Q. 納品後に「やっぱり素材がほしい」と思ったらどうなりますか?
制作会社に素材が残っていれば対応してもらえる可能性がありますが、保管期間や費用は会社や契約によって異なります。必要になりそうなら、契約の段階で範囲と時期を決めておくのが確実です。
Q. 素材を受け取れば、自社で自由に編集してよいですか?
データを持っていることと、自由に使えることは別です。編集や別の動画への流用が、契約で決めた著作権の扱いや利用範囲に入っているかを確認しましょう。BGMや素材サイトの素材は、それぞれのライセンスの条件にも従う必要があります。
Q. 保管用のHDDはどのくらいの容量を用意すればよいですか?
撮影時間とカメラの台数から素材の量を見積もり、バックアップの分も考えます。3-2-1ルールに沿うなら、普段使う保存先とは別に、同じ量を保存できる媒体が2つ必要です。


